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古川柳男色事情走書    南 ツカサ

其の六十一:口説くという事

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  健全な肉体を持った年頃男子には、健全たる性欲が訪れます。自己処理でまかなってもいいですが、それは最後の手段。やはり相手を見つけて一戦交えたいと思うのが、これまた健全な流れです。決まった相手がいる場合は問題ありませんが、相手を探して口説き落とす、すなわち「交接に同意を得る」にもいろいろ技巧が要ります。そんな句を今回は見ていきましょう。

くどき出すまへのしばらくだまつてる

  まずは目ぼしい相手を見つけ出しました。「よう!」と声をかけ、相手の足を止めます。ここでいきなり本題に入るのは野暮というもの。天気の話や世間話をしながら、ゆっくりと相手の反応を確かめます。そしていよいよ口説きにかかる前に、無言で意味ありげな視線を送る、というのがこの句の意です。この無言の間で、相手にも本当は何のために声をかけたのか悟らせるという点がニクいテクニックですね。おそらく相手も「あ、口説かれるのかな?」と少しの期待を抱いたのではないでしょうか。どうやらこの口説きは成功しそうです。

おえたには勝たれずおおさおおさなり

  こちらは少々切羽詰まった状況の句です。「おえた」とは男根が屹立している状態で、一刻も早く相手を口説き落として交接に持ち込まなければなりません。「おおさおおさ」とは、子どもがぐずった時に「よしよし、何でも言うことをきいてやるよ」となだめる言葉です。つまり、「やらせてくれるなら、なんでも望みは叶えてやるから、やろうよ」と迫っているわけですね。口説かれている男子は、言い寄る男の必死さを見抜いて、いろいろとおねだりをしてきたのでしょう。それを片っ端から「いいとも、いいとも」と答える姿は、滑稽でもありますが、健気な感じもしますね。

付文はへのこの形に結ぶなり

  口説きの手紙のテクニックです。「付文」とはラブレターのことですが、「好きです。愛しています」と想いの丈を伝えるものではなく、交接を誘いかけるための手紙ですね。そのことが一目瞭然であるように「へのこ(男根)の形に結びました。男根の形に紙を折るのは、なかなか難しそうですが、慣れたものなのでしょうか。受け取った方もきっとピンと来る相手なのでしょうね。へのこ型に折られた紙には、「やろうぜ」とは書かず、場所と日時のみ書かれていたのかもしれません。受け取った側も、思わずにやりとしてしまうテクニック。小粋なものです。

コラム「古川柳男色事情走書」著者プロフィール
南 ツカサ(みなみ・つかさ)  Twitter

古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。

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