陰間茶屋での最終目的は陰間との交接にありますが、お客を楽しませ、次なる指名をとるには交接技術だけではお客の心を繋ぎ留めることは難しいものです。そのため、陰間たちは他の接客術も身につけていました。
「八宗」とは、数ある大乗仏教のすべての宗派のことを指します。陰間茶屋のお客はお坊さんが多いですが、必ずしも同じ宗派ばかりとは限りません。天台宗・真言宗・浄土宗・日蓮宗…などなど、各宗派のお客がやってきます。男色に宗派は関係ないんですね。その一つ一つに、話を合わせるのが陰間の手腕。普段から各宗派の教えについて勉強していないと出来ない技です。
話は少々逸れますが、「たいこもち宗派ばかりは負けていず」という古川柳があります。お客におべんちゃらを言ってナンボの「たいこもち」ですら、自分の宗派についてお客に議論をふっかけられると言い返したのですから、陰間たちの柔軟さが見てとれますね。
「乙りき」とは「一風変わっている」といった意味です。陰間茶屋では、まず飲食の場があり、そこで盛り上がって床入りという段取りになります。陰間は男子ながら振袖を着て、男性客の相手をします。その姿が艶やかでなければ、お客の興を引くことは出来ません。また、飲食の場で無言でいては、白けてしまいます。自分の美しさを見せ、会話で客を楽しませ、そして交接へ進む…というのは、やはり陰間たちの努力でしょう。
そうした接待を受けた和尚が引退しました。「後住」とは後任の和尚のことです。後を引き継いだはいいですが、お寺の内情を知ってびっくり、前任の和尚が芳町で作った借金に肝を潰したという句です。「穴」は借金を示すと同時に「肛門」をかけてあります。
自分を楽しませてくれる場があることは幸せなこと。そのために努力をしている陰間たちがいるのも心強いもの。でも、そのために被害を被る人がいないように遊ぶことも大切ですね。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。