男娼の街・芳町ですが、色町として男女問わずに平等に性を提供していました。そのおおらかさが見えるようなのが次の句です。
「お尻がご所望で? よい尻の子がいますよ」「立派な男根がご希望ですか。どうぞこちらへ」なんて客引きが言っているのが見えるようですね。
さて、そんな様々な客の中でも、多くの句が残されているのが男色目当てのお坊さんです。前回に引き続き、お坊さんたちの古川柳を見ていきましょう。
「そうおふ」とは「相応」と書いて、ふさわしいという意味です。何故、芳町の時計がお坊さんにふさわしいのでしょうか? それは、時間を計るのに「線香」を用いていたからです。現在のような精密な時計やタイマーなどがない時代ですので、線香の減り具合で時間を計っていたのです。
お坊さんと線香は切っても切れない関係にあります。道楽をするのにも線香がついて回るとはさすがだ、と皮肉った句です。
この線香、一本を「一切り」と呼んで、約60分程度だったと言われています。陰間遊びは四切りが基本でしたので、愉悦に浸る時間は4時間程度ということですね。陰間遊びはただ交接するだけでなく、飲食も伴うものでしたので、顔合わせから飲み食いをして、いざ一戦…となると4時間なんてあっという間だったでしょう。
線香代は一切り二万五千円程度でしたので、一回につき約十万円かかることになります。案外、高い遊びだったんですね。
楽しい時間は矢のごとく過ぎていきます。この句の「匂い」とは、線香の匂いのことですね。燃え尽きてしまえば、夢のような時間も終わりです。茶屋の人間が「お迎いでございます」と時間を知らせるのがルールでした。お坊さんは名残惜し気に僧衣を身にまとったに違いありません。
ところで時間を計る線香ですが、時間を短縮させるために、こっそりと下を折るという悪さをする陰間もいたということです。気を抜いてはいけませんね。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。