男色交接を語る上で、触れたくない問題があります。触れたくないというか、見ない振りをしたい、いや出来れば無いことにしたい事象…その一つが「屁」であります。しかし男色交接に用いる穴が穴だけに、避けては通れない題材として古川柳の作者たちは見逃しません。どのように「屁」が扱われているかを見ていきましょう。
一読「どういうこと?」と思われるかもしれません。臭い屁を嗅いで「気を悪くする」のは性別・性癖を問わない当たり前の反応と思われることでしょう。でも、この「気を悪くする」というのは「性的に興奮する」という意味があるんですね。となると、句の意味は一目瞭然です。男色交接につきものの特有の匂いを嗅いだことでムラムラした気持ちになった、ということです。
江戸の小咄(こばなし)で、陰間好きが「たまには女郎屋に行こうぜ」と誘われたというものがあります。しかし、遊女街に向かう途中で肥え汲みとすれ違い、陰間好きは「ああ、陰間茶屋が恋しくなった」と言うオチとなっているんですね。一般には不快と思われる匂いも、男好き男性にはたまらない香りだということがわかります。
出物腫れ物所嫌わず。行為の真っ最中でも、放屁の衝動は襲ってきます。けれど、その出口は攻めの男根でしっかりと栓をされてしまっている。行き場を失った屁は、陰間の内臓に逆戻りするしかなかったでしょう。まさか、屁が出そうだから抜いてくれ、とはお客に言えませんものね。
こちらは我慢しきれず放出してしまいました。攻めがまだ若い屈強な男根の持ち主ならば耐えられたかもしれませんが、老僧のたよりない男根では食い止めることが出来なかった模様です。良い心地で挿入していたのに、あっけなく抜栓されてしまいました。射精に至る直前だったとしたら、無念以外の何物でもなかったでしょうね。気分も削がれますし、己の男根の弱弱しさを思い知らされることにもなります。まあ、でもめげずに再びの挿入を行ったと思われますが。
とはいえ、陰間側もこうした事態に陥らないように、いろいろ苦心をしていました。それはまたの機会にご紹介します。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。