今回のテーマは「振られる」ですが、古川柳において「振られる」というのは「恋心を打ち明けたけど、受け入れてもらえない」のではなく、ずばり「やらせてもらえない」という意味です。淡い思慕を寄せるという恋もあったでしょうが、結局は「やらせてくれるか、否か」にたどり着くので、まあ単純明快ですね。
「振られる」ということについては、なんと言っても次の一句が有名です。
「モテようとするのではなく振られないようにしなさい」とは、なかなか含蓄の深い言葉です。人はつい「ちやほやされてモテたい、いろどりみどりでやりまくりたい」と考えがちですが、そうは問屋が卸しません。せめて嫌われて拒絶されないように心がけることが大切です。
「位のあるへのこ」とは、高い地位にいる男が権力を以て関係を迫ったことを表します。でも、見事に振られたようですね。いくら相手が偉かろうと、身体を交わす関係には関係のないこと。むしろ、そんな野暮な男を相手にするのはごめんだという男子の心意気が見えるようです。
こちらは、振られた挙句に二次災害に遭った句。気に入った男子を饒舌に口説いたのでしょうが、相手はお気に召さなかったようで「やらせろ、やらせろってうるさく言ってくる奴」と言い触らされてしまいました。そうなると、別の男子が仮に「相手にしてもいいかな」と思ったとしても、「あんな噂をされている奴とやるんだ」と思われるのが嫌さに、近寄らなくなってしまったかもしれないですね。振られるにも、その引き際を見極めるのが難しいようです。
振られてしまっても、口説いた相手の姿形は美しいのです。でも、自分を振ったのだから面憎い。一種の言葉遊び的な句ですが、振られた男の心理をうまく突いています。振られても「やっぱり顔は好みなんだよなぁ」と未練も残っているのです。
振られないに越したことはありませんが、振られるにしても粋だと思われるような振舞いをしておくことが、次の機会に繋がるものかもしれませんね。振られた数だけ男が磨かれるものであって欲しいものです。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。