男娼街・芳町についてはこれまで何度も触れてきましたが、そこで今回は、陰間以外の人々がどんな様子だったかを記した古川柳を紹介していきます。
芳町があったのは、現在の日本橋人形町一丁目あたりです。今でも細い道が入り組み古き良き情緒を残していますが、お江戸の時代からの街並みなのですね。陰間茶屋は、そんな細い道を辿ってお客が押し寄せるところ。お客ではない人にとっては「よくこんなわかりづらい場所にある店に来れるものだな」と感心(?)するものだったのでしょう。
ちなみに、この句の「狭い」は、男根を挿入する箇所を重ねてあったりもします。確かに、女性の箇所に比べ、狭いですものね。
「年寄りの橋」とは「親父橋」のことです。日本橋から芳町に行くには、この橋を渡らなければならなかったのですね。そして渡った先には「若衆(陰間)」がいる…と対照的なものを並べた面白さを狙った句です。
もっとも芝居小屋に行くのにも親父橋を渡る必要がありましたので、必ずしも渡った人が芳町に行ったとは限らないんですが。
芳町は男娼街という意味合いのほかに、口入屋(現在のハローワーク)が並んでいたところでもありました。仕事をもらいに初めて芳町を訪れたら、女装をした男性が歩いているわ、客引きはされるわ…で、なんのことやら混乱したことでしょう。でも、きっとそれも束の間。すぐに慣れて、案外「お金を溜めていつかは俺も陰間を買うぞ」なんて誓ったかもしれません。
こちらは芳町ベテランさんの句ですかね。用事があるから通っているだけなのに、「お兄さん、馴染みはおありかい?」「ちょっと上がっていきなよ」などと袖を引かれたら、煩わしい以外の何ものでもないでしょう。でも、特に男色に嫌悪を示しているわけではないのが、この句の淡々とした良さです。
男色を茶化した古川柳も多くありますが、今回のようなほのぼのとした句も結構あるんですよ。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。