陰間たちの仕事は、突き詰めれば「客と交接を行うこと」ですが、そこで気に入られ、次の指名を受けるために涙ぐましい努力がなされていました。
その一つが「食べ物」です。
まず、匂いのあるものはご法度でした。だから焼いた魚や鳥は匂いがあるのでダメ。身体が匂ってしまうのですね。お浸しや汁気のあるものは。汁を零したらみっともないのでダメ。とろろ汁、納豆汁、奈良茶(お粥の一種)、蕎麦などは、どんなに客に勧められても、ズルズルと啜る音が興を削ぐのでダメ…といった具合です。
また、どんなにお腹が空いていようと、客の前で貪り食べることも禁止されていました。客と飲食をする時には、申し訳程度に料理をつつくのが作法とされていたのですね。
とはいえ、陰間といえば十代~二十代の食べ盛り。分けても、十代の少年たちにはどうしても食べたいものがあったようです。
「芋・たこ・なんきん」といえば、女性が好む三大食べ物として有名ですが、甘くてほくほくした芋を好むのは陰間少年たちとて同じことでした。
しかし、芋を食べれば、必然的についてくる生理現象が「屁」です。前にもご紹介しましたが(其の十六「屁の事」参照)、行為の真っ最中に屁が出てしまうのは悲劇以外の何物でもありません。それゆえ、芋は厳禁中の厳禁な食べ物とされていたのですが、目の前に出されれば、つい手を出してしまうのが人情というもの。
けれど、こっそり食べたつもりでも、見ている人は見ているのですね。接客が終わり自分の部屋に戻ると親方たちに、きっちりと叱られてしまいます。
陰間とて、客の前で粗相をしたくないのは当然です。どうせ勤めるなら、売れっ子にもなりたい。そうした思いが「男色の開祖」と言われていた弘法大師へ芋断ちを誓わせたのでしょう。また、そうでもしなければ芋への誘惑に打ち勝てなかったものと思われます。
芋を断つために弘法大師を拝み、客がついて痔になっては弘法大師を拝む。陰間たちも必死です。弘法大師はちゃんと願いを叶えてくれたでしょうか。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。