前々回、前回に引き続き、今回も「口説くという事」についての句です。口説くというのは本能に基づく欲求が促す行為なので、どうしても直接的な言動に繋がりやすいようです。粋とか優雅とはちょっと縁遠いものになりがちです。
「減るもんじゃあるまいし、やろうぜ」というあっけらかんとした口説きですね。無筆(文字が書けない)同士であれば、手紙などの口説いた証拠も残りません。でも「同士」と言っているところを見ると、口説かれた方もまんざらではないようです。案外、手練手管を用いた口説きよりも、身も蓋もなく言われた方がグッとくるものなのかもしれません。
こちらは少々攻めが強引な口説きです。受けが抗っているのに「まあまあ、それは後から聞くから」と交接に持ち込んでいます。一歩間違えれば強姦ですね。「嫌よ嫌よも好きのうち」とは、強引に迫る人間が使う理由ですが、さてこの句の受けはどうだったでしょうか。この攻め、やることやったら言い分なんて聞かずに立ち去りそうですし。受けも少しは気があったことを祈りたいです。
恋人がいる受けを口説いたのでしょう。そして、一戦を交えたところで、その恋人に見つかったものと思われます。「こいつは俺の男なのに、何やってやがんだ!」と詰め寄られて、「こいつがさせるからしたんだ」とは、なんとも自分勝手な言い訳です。こんな言い訳をする男というのは、口説く時も強引に押し倒したんじゃないかと容易に想像できます。口説いて交接に持ち込んだからには、堂々とその責任は自分で引き受けてもらいたいものです。
さて、三回にわたって「口説くという事」についての句を見てきましたが、いかがだったでしょうか。強引な口説きの方が多かったですかね。もちろん、粋な口説きやきめ細やかな口説きをしている人もいたのでしょうが、古川柳というのは意地悪な目線で物事を見るので、ちょっと視点が偏ったかもしれません。でも、性欲が昂った時には相手を見つけて昇華するのは自然の欲求です。人間の「むき出しの感情」を見つめたものとして、鑑賞してもらえれば幸いです。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。