色街に遊びに行くのに、一人で行くのは味気ないということで、大抵「今日あたり遊びに行くか」と思い立った人は、友人を誘います。色街へ行くのは、性欲処理だけではなく、男子の社交の場であったことの証左でもあります。誘われて、「おう、いいね!」と誘いにすぐ乗る人もいれば、そうではなかった人もいるようで……。
断る理由に「おふくろがうるさいからさぁ」と断るのは、まだ初心者だという句です。行きたい気持ちはあるけれど、行こうとすると母親の反対に遭う。それを振り切ってまで行くのは億劫だということでしょうか。せっかく小粋に楽しもうという誘いを断るには、真っ正直な断りではありますね。
これが手練れになってくると、反対を押し切るどころか、親を騙して資金を巻き上げることまでやるようになるのだから、怖いものです。
行かないと言うのなら、放っておいてくれればいいのに、遊びに行くことを止めるよう説得にかかる(異見する)人もいたようです。誘った人間にとっては、「しまった、声をかけるんじゃなかった」と後悔したことでしょう。
「おまえも遊んでばかりいないで、少しは家業に身を入れてだな……」と同年代の友人に言われたくはないものです。もっとも、この説得に応じたとは思いませんけどね。色街まで来て、ようやく説得する友人は踵を返したのでしょうか。おせっかいに時間をかけるとは、結構暇な人だったのかもしれません。
「しわいやつ」とは「ケチな人」という意味です。幕府はしょっちゅう経済引き締めのお触れを出していましたから、遊びに誘われると、自分のケチを棚に上げて「こういう時節だから、遊びにうつつを抜かすのはいかがなものか」と断るというのです。でも、誰かが奢ってくれるとなると、コロっと「行こう!行こう!」となっていたかもしれないですね。ゲンキンなものです。
時節がらといえば、2020年は新型コロナウィルスの影響で、街に繰り出すこ とは自粛するよう呼びかけられています。現在は緊急事態宣言が解除されたとはいえ、夜の街で多くの感染者が出ていることが確認されています。言い訳としての「時節がら」ではなく、世の動向をしっかり把握した上で責任のある行動をとっていきたいものですね。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。