色街では必ずしも通である必要はありませんが、どうせ楽しむなら小粋に決めたいものですね。しかし、遊びに不慣れな人は、頑張って通の振りをしてもふとした時にボロが出てしまうものです。
芳町を始めとする男色街にも、付け焼刃なお客が訪れていたようで……。
「御用達」とは、幕府などに出入りしている商人のことで、特権的階級にいることから、そうとう威張っていた模様です。問屋から商品を仕入れるのですが、その際に問屋に「陰間茶屋に連れていけ」と接待を要求したのですね。
その問屋さんが自身も陰間遊びをする人であれば、出費がかさむとしても、そう困らないのでしょうが、勝手がわからない場合は困っちゃいますよね。
御用達はおそらく自分で行く度胸はないのでしょう。しかも、他人の懐をあてにして遊ぼうとするなんて、野暮の骨頂。問屋さんが、なんとか芳町に連れていっても、偉そうに振る舞って陰間たちに嫌われたに違いありません。
「浅黄」とは「浅黄裏」の略で、田舎から江戸に参勤した田舎侍のことを指します。
武士は色街では、町人のように振る舞います。その方が「通」であり、「粋」と思っているからなのですが……やはり根っこには「俺は武士なんだぞ」というプライドがあるんですね。陰間の接客に何か落ち度があったのか、普段は一応敬意を持って接せられているのに馴れ馴れしさが度を超したと思えたのか、それとも単純に振られたのかで、「俺を誰だと思っているんだ!」と激高してしまいました。
陰間の方ではプロですから、会った瞬間に「こいつは浅黄裏だな」と見抜いていたと思われますけどね。これまた、野暮なお客です。
解説は不要ですね。色街は、束の間夢を見るところ。惚れたはれたの熱いやりとりも、茶屋を一歩出ればさらりと流すのが粋というものです。
なのに、陰間のリップサービスを真に受けてつきまとうのは、野暮を通り越してルール違反と言ってもいいかもしれませんね。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。