さて、ここしばらく「御用聞き少年」の受難の句を続けて紹介してきました。しかし、御用聞き少年もいつもやられて泣き寝入りするばかりではありません。今回は、御用聞き少年たちの抵抗する様を見ていきましょう。
男やもめの家に御用廻りに行った御用聞き少年。例によって、その男に尻を狙われて押し倒されそうになります。だけど、この御用聞き少年は黙って言いなりになどなりません。天も裂けよとばかりに大声を上げました。場所は長屋ですかね。ご近所の人々が行き来するところで騒がれては、さすがに襲った男もバツが悪かったことでしょう。
「交接
をしたいなら嫁さんをもらうんだね!」と、これは活きの良い啖呵です。オマエの性欲処理の相手になんかならないぜ、という心根の強さが感じられます。御用聞き少年に恋い焦がれてのあまり…というならいざ知らず、穴ならなんでもいいという男の考え方が許せませんね。
まあ、年頃の男が性欲を持て余すのは自然の理
もあります。肌を合わせる相手がいない場合は、自分の手を使う「千
摺
り」が一般的でしたが、江戸時代の自慰道具
「吾妻形
」というものがありました。女陰に似せた道具に綿などを詰め、その割れ目に男根を挿入して使うものです。いずれにしても、自分で処理しなさい、ということですね。
おっと、これは危ういところまで迫られたようです。「尻を捲る」は“それまでの態度を急に変えて強気に出る”という意味がありますが、この句では文字通り物理的に「尻を捲られて」いることにもかかっています。古川柳は、こういう言葉遊びが好きなんです。
この御用聞き少年は、自分の仕事である樽の回収も投げうって、ひたすら逃げました。自分の身が危うい時に、仕事だなんて言ってられませんよね。
自分の身に危険が迫ったら一目散に逃げる。それが、一番の手立てなのです。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。