陰間たちの間で、もっとも悩まされた病気が「痔」です。想像はつきますよね。夜な夜な異物を挿入されていれば、どんなに鍛えた肛門
も悲鳴を上げようというもの。
痔にも種類があるのですが、一番多いとされているのが「いぼ痔」です。これは、肛門付近の毛細血管がうっ血することが原因で、いぼのような突起物が出来ることからそう呼ばれます。現代では手術で取り除くことも可能ですが、お江戸の時代では、温泉治療を行うことが最適とされていたようです。お尻を温めることで血行を良くし、うっ血が解決されるということですね。
箱根の底倉
温泉は、陰間たちが治療のためによく訪れていた場所です。
底倉温泉に行くまでには山の登り下りが激しく、駕籠の座席も痛みやすい、ということを詠んだ句ですが、「尻」を入れ込んで、乗っている客が痔を患っていることを暗に示しています。どちらかというと、痔の客のことを詠みたかった句でしょうね。
湯女というのは、温泉客の世話係であり、また夜のお相手も勤める存在です。そんな湯女たちですが、美しい陰間たちが湯治に来ると、落ち着きがなくなってしまったようです。「うわうわし」とは「浮浮し」とも書き、浮かれていることを意味します。普段、お歳を召した客ばかりを相手にしていれば、美少年・美青年の夜伽が出来るかも…と期待してもおかしくありません。
この句は完全に言葉遊びですね。「釜」はお尻のことを指しますし、それを直す(鋳掛ける)のは、箱根・底倉温泉だ、というだけの句です。でも、「芳町」も知らない純真な人には、何のことやらわからない句になっていますね。
おそらく陰間たちは温泉街でも、その美しさで目を引いたことでしょう。湯治客の中には「どこかで見た顔だな…」と頭を捻り、陰間茶屋で肌を合わせていたことを思い出した人もいたのではないでしょうか。そんな時、声をかけたりしたんですかね。なんとなくお互いバツが悪いような気がしますが。
古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。